松尾形成外科・眼瞼クリニック
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まぶたがギューと閉じてしまう
眼瞼痙攣(がんけんけいれん)の機序
「まぶたが開きにくい」という症状で、受診される患者さんの中に、まぶたが閉じてしまうという病気の眼瞼痙攣の方がかなりいます。なぜなら、腱膜性眼瞼下垂症・代償期の方が眼瞼痙攣になっていくのです。
正常人のまぶたを開ける目的は、視野を確保するだけでなく、ミュラー筋機械受容器を伸展して青斑核を刺激して、覚醒・筋緊張・交感神経緊張をコントロールすることなのです。
腱膜が瞼板に付いている正常人でまぶたを開けているとき、「まぶた閉じる筋肉の収縮<<まぶたを開ける筋肉の収縮」なので、まぶたは容易に開けていられます。
腱膜が瞼板より外れている腱膜性眼瞼下垂症・代償期では、青斑核を介した筋緊張亢進が、青斑核→扁桃体→帯状皮質→顔面神経核を介した閉瞼筋遅筋線維の収縮の亢進で起こり、 「まぶた閉じる筋肉の収縮↑<まぶたを開ける筋肉の収縮」となり、まぶたは開いていられるが、疲れると、まぶた閉じる筋肉の収縮が勝ち、ピクピクするようになります。
腱膜性眼瞼下垂症・代償期でミュラー筋が肥大してくると、「まぶた閉じる筋肉の収縮≦まぶたを開ける筋肉の収縮」 の状態のまぶたが、ショボショボする間代性眼瞼痙攣(かんたいせいがんけんけいれん)、 「まぶた閉じる筋肉の収縮>まぶたを開ける筋肉の収縮」の状態のまぶたが、ギューっと閉じてしまう強直性眼瞼痙攣(きょうちょくせいがんけんけいれん)になってしまいます。
兆候(見た目)
しかめ面になっています。
①眉間の縦皺が深い。
皺眉筋という筋肉の収縮が肥大して強いので、盛り上がって深い縦皺ができます。
②目尻のカラスの足跡が深い
眼輪筋というまぶたを閉じる筋肉の収縮が強いためです。
③ほうれい線(鼻唇溝)の上の小鼻の部分が深い
上唇鼻翼挙筋という筋肉の収縮が強いためです。
④下瞼(したまぶた)が上がっている
したまぶたにある眼輪筋の収縮が強いので、下に凹のまぶたの形が、水平であったり、涙袋ができていたり、したまぶたの内側にタテジワが寄っています。
⑤眉毛下垂(まゆげの位置がさがる)
眼瞼痙攣でギュッと目を閉じたり、それに抗うように眉毛を随意的の大きく持ち上げていると、眉毛を骨に固定している靭帯(retaining ligament)が伸びてしまい、眉毛の位置が下がってしまいます。
症状
①まぶたがショボショボする間代性眼瞼痙攣、まぶたがギューっと閉じてしまう強直性眼瞼痙攣
これらは、寝不足、パソコン作業、車の運転、人との打ち合わせなど、青斑核を介した覚醒が必要なときに悪化します。
まぶたがショボショボする間代性眼瞼痙攣の初期は、パタパタしたまばたきが多い状態なのです。しかし、正常のまばたきより、ゆっくりで閉じていないことが多いのです。
②不眠
腱膜が外れてミュラー筋が肥大していると、まぶたを閉じても、眼球運動の出現するレム期睡眠で、覚醒の中枢の青斑核が刺激されてしまい、睡眠障害になります。
また、青斑核が強く刺激されているので、不安障害、気分障害になっている人も多いのです。
不眠により頭がボーっとした状態で、覚醒しようとすると痙攣が悪化します。
あくびをするとき、眼球を奥へ引いてミュラー筋機械受容器を強く伸展して、青斑核→扁桃体→帯状皮質→顔面神経核を介した、閉瞼筋遅筋線維の収縮の亢進でまぶたが閉じてしまうことが、いつも起きていることになるので、眼瞼痙攣は「あくび目」とよぶことができます。
③まぶしい
ミュラー筋機械受容器を強く伸展して、青斑核を介した交感神経緊張が起きるので、瞳孔は固く広がったまま(tonic pupil)なので、まぶしいのです。
④ドライアイ
ミュラー筋を収縮させて、まぶたを開けているので、まばたきが閉じない場合は、ドライアイを訴えて、眼を奥にひいて「あくび目」になると、眼球の後ろにある毛様体神経節が刺激されて、なみだ目になっている人もいます。
⑤眉毛を意識して上げるか、鼻の下を伸ばしている
眼瞼けいれんで縮んでいる筋肉を伸ばしているのです。
診断方法
①しかめ面筋が肥大していて、その筋肉を押したりつまむと痛みがあります。
②痙攣の誘導(ミュラー筋機械受容器の伸展刺激)
重りをまぶたの縁に貼り付けて、ミュラー筋機械受容器の伸展刺激しながら開瞼すると容易に痙攣は誘発できます。
強い上方視を続けていると、眉間のシワが深くなり、パタパタまぶたきが出てきて、まぶたが閉じてしまいます。
数秒間、強くまぶたを閉じた後にまぶたを開けると、パタパタまばたきが出てきて、しかめ面になり、まぶたが閉じてしまいます。
45度くらいの下方視をして、ミュラー筋機械受容器の刺激をしないようにすると、痙攣を減らすことができます。
治療方法
①ボトックスをしかめ面筋に注射します。これが有効でない方は、下記の手術方法となります。
②まぶたの手術で、外れた腱膜を固定して、ミュラー筋を瞼板より外して、ミュラー筋機械受容器の感度を下げます。
これは世界ではじめて、私が報告した方法です。
ミュラー筋機械受容器伸展→青斑核→扁桃体→帯状皮質→顔面神経を介したしかめつら筋遅筋線維の収縮による眼瞼痙攣は治療効果があります。
しかし、情動で起きる痙攣には効果は少ないです。人間関係で苦しんでいて、青斑核を介さず、情動→扁桃体→帯状皮質→顔面神経を介したしかめつら筋遅筋線維の収縮による眼瞼痙攣には効果が少ないです。
③眉毛が下がってしまっている方は眉毛挙上術を行います。
長期間、痙攣で強くまぶたを閉じたり、意識して眉毛を上げている人は、眉毛を骨に固定している靭帯が伸びてしまい、眉毛下下垂になってしまいます。
痙攣の程度の強い場合、同時にしかめ面筋の減量を行います。
治療はすべて、保険診療で行われます。
①~③のどの治療が行うかは、よく相談して行います。
眼瞼痙攣のメカニズムと治療方法は私が世界で初めて報告しました。その文献は下記のとおりです。オープンジャーナルなので、だれでも読めます。
参考文献
1)Matsuo K, Ban R,Hama Y, Yuzuriha S. Eyelid opening with trigeminal proprioceptive activation regulates a brainstem arousal mechanism. PLoS One. 2015;10:e0134659.
2)Matsuo K, Ban R, Ban M. Desensitization of the mechanoreceptors in Müller's muscle reduces the increased reflex contraction of the orbicularis oculi slow-twitch fibers in blepharospasm. Eplasty. 2014;14:e33.
3)Matsuo K, Ban R, Ban M, Yuzuriha S. Trigeminal proprioception evoked by strong stretching of the mechanoreceptors in Müller's muscle induces reflex contraction of the orbital orbicularis oculi slow-twitch muscle fibers. Eplasty. 2014;14:e30.